走るくらいなら死んだ方がマシだと思っていた 〜沖縄100Kウルトラマラソン参戦記〜

あなたは100kmを一日のうちに走り通したことがあるだろうか?
世間の圧倒的多数の人は(あるいは正気を保っている人は、というべきか)、おそらくそのような経験をお持ちにならないはずだ。
普通の健常な市民はまずそんな無謀なことはやらない。
「走ることについて語るときに僕の語ること」 村上春樹



鈴木武史(41歳、ピュア独身※1)です。
今年で第三回を迎えたレース、沖縄100Kウルトラマラソン(以下沖縄100K)に参戦してきました。
www.okinawa100k.jp
一日の内に100km道路を走り通すという、この日常性を大きく逸脱した行為が、
ランナーとしての、延いては一人の不完全な人間としての自分の内面にどのような波紋を起こすのか。
そしてそれを成し遂げた時にどんな景色が見えるのか。
それを確かめるべく、100km走る為に、ただそれだけの為に、仕事の納品を後ろ倒しにし、
愛猫の世話を人に頼み、まるで阿呆みたいな顔をして飛行機で日本の南端まで行ってきた訳です。
まさか人生初沖縄がこのような形になるとは、長距離走が大嫌いで、
走るくらいなら死んだ方がマシだと思っていた幼少期の自分には想像すら出来なかった。


沖縄100Kは、与那古浜公園(沖縄県島原郡与那原町)をスタートし、海岸線から奥武島を経由する海沿いのコースを経て50km地点にある糸満市役所を折り返すコースである。

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60km過ぎから登りがキツくなり、累積標高は1,500mほど

キロ6分で走れば100kmは10時間で走り切れる。
そこに用足しや食事の時間を入れて、11時間以内でゴール出来れば良かろうという算段だったが、
人生に於ける多くの事象がそうであるように、
物事は期待するほど甘くないという事実がのちに判明する事になる。


スタートは早朝5時。
大会側から簡易なハンドライトが貸与される。
本人が望むのであれば自前のヘッデンを点けて走っても良いが、
ハンドライトなら20km地点のエイドで返却出来るので、僕はそれを携行させてもらった。
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スタートは目標8時間以内、10時間以内、12時間以内、14時間以内をその場で自己申告の4ブロックに分けられる


フルマラソンは今までに何度も走ってるが、今までにキロ6分のペースでレースを走った事はなかった。
したがって、やっぱりペースが遅いから42km地点ではまだまだ全然元気!
だったら良いなと楽観的に考えていたが、
そのオプティミスティックなプランは見事に打ち消される事になる。

気温はどんどん上がり、朝9時過ぎには手元のSUUNTOで26度をマーク。
4時間15分くらいで42kmを通過したが、普通に、ちゃんと、疲れている。

あるいは、疲れている自分がいると思っている。

もしくは、疲れていると僕の頭脳が僕にそう思わせている。

けどまだ半分も終わっていないんだよな。
一体これからどうなってしまうんだろう?


やっと辿り着いた50kmの折り返し地点にドロップバッグ※2を受け取れるレストステーションがある。
ここでは芝生に座り込んでいる人、横になって回復を図っている人もいたが、
僕は一度も腰をおろさなかった。
というのも、一度でも座ったらもう走り出せなくなりそうだったからである。
したがって僕は日差し対策のサングラスを装着し(65km地点のエイドで忘れる事になる)
あわれな象のように水浴びをして身体を冷し、エナジージェルを補充しただけでゴールに向かって踵を返した。
やれやれ、まだ半分も残ってるのか。


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レストステーションにはもずく酢やおにぎりなどがあった


60kmまではただただ無心で脚を動かしていただけ。

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何しろ暑い。熱い
考えごとをしただけで、その分脳味噌でエネルギーを消費するのではないかと懸念していたのである。
しかしながら、いよいよ60km地点にある中ボスの坂が始まると
何も考えないでいる事が難しくなってくる。
約5kmもの間、だらだらと果てしなく続く坂。気温も30度近くまで上がっている。

つらたんと思った。

「つらたん」

と実際に口に出して発音してみたが世界は変わらない。

試しに

「つらいお」

とも言ってみようかとも思ったが、さすがに馬鹿馬鹿しくなってやめた。
いずれにせよ、太陽は無慈悲に肌を焦がし、空は飽くまでも深く、海はどこまでも青いままだ。
しかしながら、確かに世界は変わらなかったが、発熱で止む無くDNSしたアクさんと奥さんの寿美さんがわざわざレンタカー借りて応援に来てくれた! 一番高いユンケルと水を持って。
いきなり車で現れた時は一瞬何が起こったか分からなかったが、これで元気をもらってちょっと復活。
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2リットルの水を、靴が濡れないように首からかけてもらう


なんとか中ボスをやっつけ、残るは75kmから7kmほど続くラスボスの激坂
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これがとんでもなくキツかった。

とにかく暑過ぎる。空が青過ぎる。サトウキビが生え過ぎてる。シーサーの数が多過ぎる。
登っても登っても終わりが見えず、目に付くあらゆる事が気に入らなくなってくる。

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腰が落ちてるのは分かっていても上げられない

80km地点で
「あと少しだぞ!」
と応援してくれたおっさんに対しても
「テメェにとって80km走った後の20kmは少しなのか?」
と心中で毒づく始末(本当に申し訳ございません!)

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こういう状態

それでもなお、もちろん終りはやってくる。
「あと少しでニライカナイですよ!」
と沿道で応援してくれていた女子に言われ、
ニライカナイって何でしたっけ?」
と返すと
「とにかく絶景なスポットです!」



話は逸れるが、みなさんは走るようになった明確な切っ掛けはあるだろうか?
自慢じゃあないが、僕はある。太ってたのである、子供の頃に(倒置法)

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なにこの髪型

物心ついた時からずっと肥満児で、中三の部活(しかも柔道部)引退時にMAX94kgまでイッた。
というと、
「けど背高いからそこまで太ってはなかったんじゃあない?」
と言われたりするが、当時178cmくらいだったので、普通に太っていた。
ジーンパンツは40インチだったので、大体サイズがなかった。
そんな僕も大学から一人暮らしを始め、食う物もロクに食わずにバイト代(意外と塾講師)と仕送りを殆ど服に使っていたらすっかり痩せていったのだが、
30歳の時の夏のある日、部屋でガリガリくんを食べながら、

「もはや私は20代ではないのだ。ややもするといわゆる中年太りという事態に陥るかも知れぬ。なんとなれば幼少期あんなに太っていたではないか。つまり私は太りやすい体質なのだ。またあの時のような体型になりたいか? 否、絶対になりなくはない。ミック・ジャガーみたいに60才になってもピッタピタの革パンを履いていたい(けどミック・ジャガーみたいにはなりたくない)。では大好きな麦酒やチョコレイト、プディングなどを摂取するのを控えるか? 否々、食べたい。だって甘くて口に入れると幸せな気持ちになるから。ではどうするというのだ。死ぬほど嫌々ではあるが、走るしかあるまい。消去法的に。オエッ」

カヒミ・カリィのモノマネをしながら独り言ち、
僕は体型維持という最も月並みな理由で道路を走り始めたクチである。
それを機にすっかりマラソンにハマってしまい、今や月間走行距離350km、年に15本以上のレースに参加するランナーになってしまった。

つくづく人生とは分からないものだと思う。

沖縄100Kを走る事が決まってからは更に走行距離を伸ばして、最長で月440km走った。
一緒に沖縄を走る予定だったアクさんと60km走も月一でやった。
帰宅ランで20km走り、途中で二郎系ラーメンも食べた。しかも帰路で全部吐いた。
そんな僕が沖縄の道路を90km近く走ってきたら、ニライカナイの絶景が目に飛び込んできた。

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一時は憎みさえした空の深さ・海の青さは、角膜に命中し頭蓋骨を突き抜けて僕の心に突き刺さった

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ゴール。11時間51分10秒。101位/545人
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まるで阿呆みたいな顔をしているが、もともと阿呆みたいな顔なのであまり変わってはいない


この強烈な体験をまだ自分の中で消化し切れていないし、
ゴール直後における身体中の痛みと疲労は凄まじく、絶対もう二度とロードのウルトラは出ないと思っていた。
だがホテルに戻ってひとっ風呂浴びてからアクさん夫妻と飲みに出かけ、アグー豚をアテに冷えたビールをたらふく飲み、
一晩ぐっすり寝て起きたら
「また100km走る事になったら、次はもっと上手く走ってやるぜ」
と思っている自分がいるから訳が分からない。



そんなに走って一体どこを目指しているのとよく聞かれる。
しかしながら、そのような質問をしてくる人の大半は走った経験をお持ちでない方なのではないだろうか。
僕みたいな三下の市民ランナーに目指している場所なんか無いです。
ただもっと速く、もっと長く走った先にどんな景色が見えるのかを知りたい。
それを知るまでは、僕はせっせと走り続けると思う。

阿呆みたいな顔をして。

どんなに遅くてカッコ悪くても。

それが僕という人間の性分のようだから、多分。

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※1 結婚歴が一度もない独身の意。
※2 長距離レースの途中で自分の荷物を預けておけるシステム。補給食や着替えを預けておくのが通常。